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読了:魔都, 久生十蘭 [読書日記]

* 魔都, 久生十蘭, 東京創元社, 9784488471118

1937年発表(戦前!)の探偵小説である。創元社が「没後60年記念出版」として文庫を出した。
久生十蘭作品は初読。帯紙には「日本探偵小説史に屹立する金字塔」なる文句が躍る。

文庫で500ページあまりとなかなかのよみごたえである。
冒頭からいきなり講談調で話が始まるので面食らうが、最後までこの調子は続く。ストーリーを追い始めて慣れてしまえばそれほど苦にはならなかった。それよりも、すらすら読むのに障害になるのは、戦前ゆえしかたないが、今となってなずいぶんと難しい漢語のたぐい。原則としてこの種の単語には漢字で本文がかかれ、それにルビが(意味が通じるように)ふってあるのでなんとか読み進められるようになっている。例えば、「係長は飽迄も謙遜り、」これを「係長はあくまでもへりくだり、」と読むのはなかなか骨が折れるはず。
ちょっと謎なのは、登場人物が会話文の中で外国語の単語をそのまま話しているらしい部分、例えば会話中で「甚だ辯明的だ。」なる部分に「はなはだイクスキューザブルだ」と読めるようにルビがふってある。最初の出版の時点でこのようにルビが付けてあったと考えないと意味が通じない。

本書は探偵小説に分類されているが、少なくとも今でいうミステリ小説ではなく、あたりまえだが江戸川乱歩以前、という立てつけである。読者が謎解きをしようという趣向ではなく、著者と登場人物が展開するものがたりに身をゆだねるのがよい。一方で本作品の読み物としての楽しみどころは、戦前の東京(と日本)の雰囲気や常識を、教科書や文献よりも肌感覚で知ったような気になれる、というところか。近代日本史はとてもとても弱いのですが、そんな自分が読者でもそれなりに読めたので、そういう目的にもよさそう。

魔都 (創元推理文庫)


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読了:しらみつぶしの時計, 法月綸太郎 [読書日記]

* しらみつぶしの時計, 法月綸太郎, 祥伝社, 9784396338114

非シリーズものを集めた短編集。1998年から2008年発表の作品が中心とのこと。

収録作品:
 使用中、ダブル・プレイ、素人芸、盗まれた手紙、イン・メモリアム、猫の巡礼、四色問題、幽霊をやとった女、しらみつぶしの時計、トゥ・オブ・アス

いくつかの作品は別のアンソロジーなどで読了済みなのはわかっていたのだが、未読の作品もあるので購入したもの。
感想は、、、作品間のギャップが大きくて右往左往した感じであります。
いわゆる異色作(「猫の巡礼」はその最右翼)が多くて、個人的には入れ込みにくいというのもあるが、本格的なパズラーかと思って読み進めていたらそうではなかったりとか、ちょっと合いませんでした。

その中でも「四色問題」は冒頭でいきなり吹き出した。巻末の本人解説にもあるが、これは都築道夫の「退職刑事」シリーズの贋作というやつですわ。すごく楽しい。四色といわれて森博嗣の某ミステリも思い出したがそれは関係なかった。

個人的興味からじっくり読みこんでしまったのは「盗まれた手紙」。途中まで読んだあたりで情報処理技術をやったことがある人はふと思うでしょう、これ何かの実用技術に似てないか?と。そう、ここで扱われているのは暗号理論でいうところの中間者攻撃そのものである。なんともマニアックなネタを下敷きにしたものだと感心するやらあきれるやら。

表題作「しらみつぶしの時計」もかなり強引な問題解法を手掛けているし(最後のびっくりポイントはおいておいても)、意外に著者はこのあたりの技術に通じているのかもしれないという気がしました。


しらみつぶしの時計 (祥伝社文庫)


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読了:世界を変えるデザイン―ものづくりには夢がある― (Design for the other 90%), シンシア・スミス [読書日記]

* 世界を変えるデザイン―ものづくりには夢がある― (Design for the other 90%), シンシア・スミス, 北村陽子, 英治出版, 9784862760586

発展途上国向けを念頭に置いた工業デザインの本である。2009年の翻訳、原書は2007年なのでおよそ10年前になる。
とあるところで本書の内容を引いた話を伺ったのに触発されての読了。

工業デザインに多少なりともかかわった人であれば、たぶん知っているプロダクト「One Laptop per Child」が表紙絵。本書ではこれをはじめとして、広義のデザインについての具体例が多数あげられているわけである。

もっとも、「デザイン」を、素敵な見栄えを実現するもの、という観点でとらえていると、いったいこの話はどこに行くのかと疑問に思うであろう。スケッチブック片手の話には全くとどまらない。本書は、いわゆる広義のデザインよりさらに広い範囲を取り扱う。具体的な形があるものはもちろん、それを取り巻く社会的な仕掛けづくりや、商業化(それはつまり永続的に普及させるための唯一の解)のための具体的な取り組みの紹介にまで至るのである。

これを面白いと思うかどうかは人によるだろう。工業技術や産業経営を根っこに持っている人は面白く読めることうけあいだ。なにより、紹介されている各種プロジェクトのうち、少なくとも本書執筆時点でいまひとつ軌道に乗っていないと思われる事例もちゃんと公平に取り扱っているところに好感が持てる。その先鋒は「Qドラム」。これも工業デザインをかじった人なら見たり聞いたりしたことがあるのではないか。発想が画期的とされながらも、本書の時点でもいまひとつ普及の道筋が見えない水運搬手段。これを失敗プロジェクトと切って捨てるのは簡単だが、今後の教訓をそこから引き出せるかどうか。

翻訳のせいかやや特徴的な言い回しが多く、ちょっとすらすら読むには苦しい感じがするのが残念。

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある


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読了:二壜の調味料 (The Little Tales of Smethers), ロード・ダンセイニ [読書日記]

* 二壜の調味料 (The Little Tales of Smethers), ロード・ダンセイニ, 小林晋, 早川書房, 9784151824012

乱歩評「奇妙な味」の代表例として高名な短編「二壜の調味料」をはじめとして、26編を収録した短編集。
店頭で平積みになっているのが目について購入。ダンセイニの作品は、「二壜の調味料」以外読んだことがないはず。

いきなり表題作で始まる冒頭の1/3程度は、リンリー探偵もの。「肉や塩味料理にかける調味料ナムヌモ」のセールスマンであるスメザーズ氏が語り手を務める。(もちろん、このナムヌモがが問題の二壜なわけだ。)リンリー探偵は安楽椅子探偵かと思っていたのだが、実はそうでもないというのは本書を読んで初めて知った。

リンリー探偵ものが終わっても、奇妙な味はそのまま続いていく。どうなることやらと思いながら読んでいくと、なんと最後までそうだった、と。なかなか楽しい読書体験でした。あえて好みの作品をあげるとすると、「演説」がなんとも面白いストーリー展開をみせる。もちろん英国の事情を知っている必要はあるが、そうきましたか!と膝を打つという話だ。

まあそうはいっても、かなりミステリマニアな人向けに本書は編まれているようにも思えますね。

二壜の調味料 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


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読了:現代暗号入門~いかにして秘密は守られるのか~, 神永正博 [読書日記]

* 現代暗号入門~いかにして秘密は守られるのか~, 神永正博, 講談社, 9784065020357

タイトル通り、暗号技術を平易に解説しようという新書版の書籍である。

情報処理関連の知識として、現代の暗号についてはある程度の予備知識があるのだが、本書の目次をみてちょっと驚いた。(そしてそのまま買ってしまった。)

第1章の共通鍵暗号から始まり、ハッシュ関数、RSA暗号、楕円曲線暗号と、現在の暗号の基本となる技術が羅列されてきたところで、第5章「サイドチャネルアタック」とくるのに瞠目。

第4章までは、これは数学で語れる暗号の理論の話。しかし第5章では、いきなり電子回路と集積デバイスの話になるのだ。ふつう、暗号技術の解説だといってなかなかこのネタを持ち出す人はいない。どういう狙いだろうと思って再度著者紹介を読んだところ、どうやら著者の神永氏はもともとその方面の専門家であるようなのだ。

そして通読してみると、やはりというべきか第5章がめっぽう面白い。技術的に多く解説されない分野であるという興味もあるが、なんというのでしょう、文章がとても生き生きしていて楽しそうなのである。この分野が本当に好きなんでしょうね。なんだか羨ましいような気分にさせられた読後感であった。



現代暗号入門 いかにして秘密は守られるのか (ブルーバックス)


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読了:満願, 米澤穂信 [読書日記]

* 満願, 米澤穂信, 新潮社, 9784101287843

米澤穂信の短編集である。山本周五郎賞受賞との帯紙の文庫装丁がめだっている。

米澤というと、どうしても青春ミステリのイメージが強いのだが、これは全く違う雰囲気の作品である。いわゆる奇妙な味のミステリというべきか、微妙な感じの読後感がずっしりと残るというものである。

全部で6編、それぞれが違う味付け。個人的な好みは冒頭「夜警」、怪しい怪しいと思って読んでいるとやっぱり大変怪しいことになり…という話。そして「万燈」。タイトルの納得感はともかくとして、微妙にコミカルなストーリがどういうミステリになるのかと思って読んでいると、これがどんどんと闇の世界に堕ちていき、そしてそして…という恐ろしい話なのである。そして表題作「満願」。昭和か大正かという雰囲気をかもす書生さん小説風の物語が進んでいくのだが、最後の最後であっと驚く思惑が…というもの。

どれもなかなか読ませます。楽しめました。



満願 (新潮文庫)


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読了:猫のゆりかご (Cats Cradle), カート・ヴォネガット・ジュニア [読書日記]

* 猫のゆりかご (Cats Cradle), カート・ヴォネガット・ジュニア, 伊藤典夫, 早川書房, 4150103534

古典SFである。1963年の著作、和訳は1979年。
先日読んだミステリで本書がモチーフとして引用されていたのだが、存在すらまったく知らなかったので入手したもの。

その内容は、背表紙などによると「世界の終末を描いたSF長編」。そういわれると「渚にて」などを思い浮かべるわけだが、目次をみるとそういう雰囲気では全くない。うう~んと思いながら読み始め、読了して、、、これは世界の終末を描いたユーモア小説なのでは?と思った次第。

登場人物たちはどの人もユニーク(?)な人ばかりで、その言行もまぁそれなりにはちゃめちゃ。ものがたりのカギとなる某博士に限っては、ステレオタイプに描かれる超専門的科学者という感じでわかりやすいのだが。また、博士が見出した「アイス・ナイン」なる結晶も、現実性はともかくとして原理はわからないでもない。

・・・なのですが、それ以外の、宗教的な観点が絡んだり、植民地の歴史が影響したりするストーリー展開は、ついていくのが精一杯。このあたりはヨーロッパ人と日本人の歴史的背景の知識や理解の差によるものなのかもしれない。解説氏も少し触れているが、元ネタを知らないとクスッとすら笑えないあたりがちょっと辛いですね。

(ちなみに翻訳で一か所だけ。「電動発電機」は、誤訳というよりそもそも意味がおかしいでしょう。原文はおそらく"electric generator"、つまり単に「発電機」ですよね(笑)。もちろんmotor generatorという「電動発電機」もありますが、例えば交流モータで直流発電をするためのものであって電源がないと意味がない。)

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)


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読了:不都合な真実 (An Inconvenient Truth), アル・ゴア [読書日記]

* 不都合な真実 (An Inconvenient Truth), アル・ゴア, 枝廣淳子, 実業之日本社, 9784408553931

10年前のベストセラー本の文庫化。超有名な地球温暖化問題の啓蒙書である。

10年前(2007年)に結局手に取る機会がなかったのだが、文庫化ということで10年前の話を現状にあてるとどうなるのかという興味もあって、気軽に購入。本書は手に取ってみるとかなり厚いのだが、中身は図表、特に写真が多いので速読可能。文章量としてもっとも多いのは、ゴア氏のエッセー調の部分のようで、そこを斜め読み(それが正しいかどうかは別にして)すれば、他をじっくり睨んでもかなり短時間で読める。

内容はというと、時事問題として読めばもう10年も前の話で、いまさらということになる。同氏の新刊もちょうどでているようなので、最新情報を追いたいならそちらを手に取るべきだろう。これを読む意味としては、10年前の最新情報はこんな内容だった、というのを改めて認識するというところにつきる。逆に見れば、10年前に地球温暖化問題がおかれていた状況から、現在の状況がどれだけ変わった/進展した/後退したのか?という観点でも読める。

ちゃんとリファレンスもついているので、多少なりとも環境問題に興味があるのであれば、史料として蔵書しておくのは悪くない。

不都合な真実 (実業之日本社文庫)


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読了:ペガサスの解は虚栄か? (Did Pegasus Answer the Vanity?), 森博嗣 [読書日記]

* ペガサスの解は虚栄か? (Did Pegasus Answer the Vanity?), 森博嗣, 講談社, 9784062940900

森博嗣のWシリーズ第7弾。舞台はインド。大富豪の豪邸にへ例によって情報収集に訪れたハギリ博士一行、またまた謎が謎を呼び、そして(ドンパチ!)という流れである。たぶん今回のテーマは:人間は人間を作り出してよいのか?

個人的には、博士のボディガードを務める面々がちかごろゆるくなってきているよなぁ、とか、ミステリじゃなくてSFなので構わないはずなのだが最後のオチがちょっとなぁ、とか、いろいろと気になる点はある。ペガサス君のおかれている状況もちょっとわかりづらいし。

ともあれ、Wシリーズもほかのシリーズと同様、最後まで目を離さないでいるしかないのかも、という気がしている。


ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)


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読了:サイタ×サイタ (EXPLOSIVE), 森博嗣 [読書日記]

* サイタ×サイタ (EXPLOSIVE), 森博嗣, 講談社, 9784062936576

森博嗣のXシリーズ第5弾。
今回はストーカにからむ張り込みの話と、ガソリン発火装置の話である。
いつもの探偵社?の面々が謎の人物からの依頼に基づいて張り込みをしているシーンから始まり、張り込み対象の奇矯な行動やらに読者は翻弄されている間に、そして殺人事件が、、、という展開である。

爆発と発火の違いという一般人にはどうでも良い話を真鍋君が一生懸命説明するところは笑ってしまった。彼は美大生という設定なのだが、いわゆる理系な性格なんでしょうね。(ちなみに危険物取扱者の資格を持っていると、両者は厳密に考えたくなります。笑)

解説で香山リカ氏も書いているが、本書は結末で謎がすべて解けてすっきり!という構成にはなっていない。標準的なミステリの読者としては、読み終えてだいぶストレスがたまる。これを深い話とみるか面白くない話とみるかは、たぶん読者によるだろう。
Xシリーズ全体として見て、最後にどう評価することになるか、になりそうです。

サイタ×サイタ EXPLOSIVE (講談社文庫)


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