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読了:オービタル・クラウド, 藤井太洋 [読書日記]

* オービタル・クラウド<上>, 藤井太洋, 早川書房, 9784150312282
* オービタル・クラウド<下>, 藤井太洋, 早川書房, 9784150312299

藤井太洋による長編SFである。藤井作品は初読。
帯紙には「『火星の人』の次はこれ!」なる文句が踊る。第35回日本SF大賞、第46回星雲賞などを受賞している。

文庫で上下2巻600ページ余りなのだが、週末に一気に読んでしまった。これは楽しい。帯紙の売り文句はなかなか正鵠をついている。まずは良質のエンターテイメント小説であり、かつハードSFの色もあり、マニアックと言えるほど細かいICTや軌道制御の描写がこれに厚みを与えている。
自分は衛星の軌道についてはずぶの素人(一般の力学は大学でやりましたが)だが、ICTなネタはたぶん完全についていけたかなと思う。時代設定が2020年ということだが、少なくとも日本人の登場人物たちが取り扱う機器、デバイス、通信などの技術は現時点で誰でも手に入るものばかり。これらが物語全体に異様なほどの現実感を与えている、と思う。(主要登場人物たるスーパーハッカー(尊称です)の手が速すぎるのは幾ら何でも…という気もするが、まぁお話なので。) これとからんで、いわゆるシリコンバレー的な風物や行動原理がちょろちょろ描写されるのも、個人的には懐かったりして極めて楽しい。

もちろん、本書は基本エンターテイメント小説なので、いろいろな点で御都合主義な展開があったりする。また(解説氏も指摘しているように)登場人物がこれ全てそれぞれの職分において超有能だったり、誰もが殆どの場面で完全に理性的に行動するとか、政治的な横槍だの色恋沙汰みたいな不確定要素は排除されていたりするのも余りに現実的でないと考える人もいるかと思う。

でもいいじゃないですか、テクノロジーに絞ったエンタメなんだと思うわけですよ、これは。政治駆け引きみたいなのを抜きで各自の技術を持ち寄ってなんとかする、失敗してもそこから予期せぬ実験結果なりを拾い上げて苦しみながらも前へ進む、そういう美しい世界を夢想させてくれます。カテゴリーでいえば、自分的にはやはりハードSF、それもJPホーガン初期三部作と同カテゴリーなのでは、と。「火星の人」も同じでしょう、と。

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)


オービタル・クラウド 下 (ハヤカワ文庫JA)


読了:デボラ、眠っているのか? (Deborah Are You Sleeping?), 森博嗣 [読書日記]

* デボラ、眠っているのか? (Deborah Are You Sleeping?), 森博嗣, 講談社, 9784062940375

森博嗣のWシリーズ第4弾。
今回のメインは、AIとサイバネティクスとネットワーク、というところか。
前作の少々ファンタジー(というかジュヴナイル)に振れた作風から、だいぶテクノロジィへ揺り戻した感じで、個人的には結構ワクワク。

あれぇその名前は「レッドマジック」じゃなかったのか?なんて楽しく思い出しながらどんどんと読み進めていく。無線ネットワークとIoT(バズワード的だが)と自律ロボット、それらにくまなく組み込まれているコア技術。それに起因すると仮定すれば説明が簡単なアレヤコレヤ。魔法のキルスイッチのような話はやや後退。あ〜なんだかとても楽しい。

現在の技術に投影するならば、ARM architecture, Linux kernel, といったところか。いやーゾクゾクしますね、ほんと。次回作も楽しみです。

ときに後半の舞台は、明らかに世界遺産なあそこですよね。行ったことがある人にとっては、多分既視感が楽しめるのでしょう、ちょっとだけ残念。

デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping? (講談社タイガ)


読了:二つの密室 (Sudden Death), F・W・クロフツ [読書日記]

* 二つの密室 (Sudden Death), F・W・クロフツ, 宇野利泰, 東京創元社, 9784488106102

アリバイトリックの巨匠・クロフツが手がけた密室トリックものである。
原書は1932年の作品で、1961年初版のものを創元が復刊フェアで出してきたのが書店で平置きになっていて目について購入。

イギリスの片田舎に建つとある屋敷に家政婦として雇われたアン女史の目を通して本作は語られる。
訳ありらしい主人夫妻、妙に馴れ馴れしい家庭教師、人のいいコック、一癖ある隣人たち。登場人物がひととおり揃ったところで第一の事件が…。という展開である。単純なことのように見えていたこの事件、地方警察からの依頼を受けてフレンチ警部がロンドンから到着するや当初の見込み判断は着々と崩れていく。そして密室トリックがついに破られるやいなや、さらに第二の事件が…。

フレンチの地道な捜査方法、つまり、ありそうに無いと思えても念のため全ての可能性を潰してゆく方法は、一見まだるっこしいともみえるが、本作を推理小説として成り立たせるために必要なのであろう。

個人的には、二つ目のトリックは読んでいて途中でわかってしまったのが、逆に残念。発表時は斬新なトリックだったのだろう。が、密室講義のたぐいがあちこちで語られてしまっている現在ではちょっと条件が悪いのかもしれない。

二つの密室 (創元推理文庫)


読了:ライト、ついてますか―問題発見の人間学 (Are Your Lights On?), ドナルド・C・ゴース&G.M.ワインバーグ [読書日記]

* ライト、ついてますか―問題発見の人間学 (Are Your Lights On?), ドナルド・C・ゴース&G.M.ワインバーグ, 木村泉, 共立出版, 9784320023680

副題「問題発見の人間学」にある通り、問題発見に関する本である。1987年に翻訳版がでている(原著は1982)古典である。長いこと積読になっていたのをようやく読了。

副題の原文 "How to figure out what the problem really is" を見たほうがわかりやすいかもしれない。直訳すれば、「実際のところ何が問題なのか、で、それをどう見つけだせばよいのか?」というところだろうか。
全編を通じて、寓話というかちょっとした事例が提示され、これらに対して以下のような課題が投げかけられる。

・何が問題か?
・問題は何なのか?
・問題は本当のところ何か?
・それは誰の問題か?
・それはどこから来たか?
・我々はそれを本当に解きたいのか?

いやそれにしてもこれは中身が深いと思う。本書では上記の問いの答えはバシっと書いてあるようで書いてない。
章末に至った段階でしばし考えても、もう一度読み直しても、なかなかスッと腹に落ちてこない。(翻訳もちょっと微妙な気もするが、そこに問題を求めてはいけない。と、本書にも書いてあるような…。)
まあ自分がちゃんと読めていないだけかもしれないが、さらさらと読んでいると何も頭に入らない類の本であろう。そういう意味では電車の中の読書には向かないかもしれないという気がする。

もっとも、その中でも Mary had a little lamb. の話は途中で吹いてしまった。いや、ゴースさん冗談が過ぎます。(笑)

ライト、ついてますか―問題発見の人間学


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読了:会社の老化は止められない。 宿命にどう立ち向かうか, 細谷功 [読書日記]

* 会社の老化は止められない。 宿命にどう立ち向かうか, 細谷功, 日本経済新聞出版社, 9784532198039

組織論の話である。
会社組織というものは、人間の成長と同じように推移していき、能力や規模の拡大と共に必然的に老化していく、と説く。
ここで「老化」は、必ずしも全面的に悪であるという趣旨ではないところがちょっとしたポイント。書名を読んでもそうは読み取れないので、署名はだいぶキャッチーな選択をしたと思われる。

「老化」が進展する原因と、その進行に伴って変質する会社組織の特徴。その利点と弊害、具体的な事例、その変化は宿命であって避けられない理由、などなど。生物の成長をアナロジーにしてこれらを説明する論は、多少強引なところもあるがそれなりにわかりやすいので読んでいて面白い。

そして最終章は、「組織の宿命をどう乗り越えるか」と題する。
これは期待しますよね、普通。

・・・肩透かしでした。
確かにその変化は避けられないという話を何度も繰り返して強調してきている本なので、なにかそれを一発でなんとかする方法があるわけがないというのは理解できますが、それにしてもちょっとすごい結論付け。
分析して終わりの論文体裁であればまったく問題なかったのですが。
もっとも、いわゆるビジネス本の中には、いかにも読者が明日からやれそうな方法論を述べているのだが、現実には実用的でない話が結論として述べられていて、というようなことは多いと思うので、それよりははるかに良心的と言えそうではある。

会社の老化は止められない。 宿命にどう立ち向かうか (日経ビジネス人文庫)


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読了:プレゼント, 若竹七海 [読書日記]

* プレゼント, 若竹七海, 中央公論社, 9784122033061

女探偵・葉村晶シリーズの短編集である。
このところちょっとこのシリーズのまとめ読みをしていて、手に取った。
1996年の作品。

短編集であるが、葉村ものと、小林警部補ものが交互に並べられている。
これは例のあれだよね、と思って読み進めていたら、果たしてその通り。今となってはありがちな構成なわけだが、当時は良い感じだったのか。20年ものなのでそのあたりは割り引いて読むべきだろう。

中盤に登場する表題作「プレゼント」を期待して読んだ。1年前に起きた未解決殺人事件、その現場に集う関係者の会話の妙、そして真犯人は・・・という趣向。個人的には、しかしそんな僥倖を期待するのはどうかなぁという感想。
どちらかというと冒頭「海の底」は、読んでいてやられた感があったのと、指弾の論理の詰めがだいぶきっちりしているところが好み。

全体として、やや荒削りというかムラがある感じもするが、若竹作品はそのあたりも持ち味だと思って楽しむことにします。

プレゼント (中公文庫)


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読了:依頼人は死んだ, 若竹七海 [読書日記]

* 依頼人は死んだ, 若竹七海, 文藝春秋, 9784167656676

女探偵・葉村晶シリーズの短編集である。2000年の作品。

若竹七海の人気シリーズということで読んでみた。若竹作品というとコージーもののイメージがあるのだが、このシリーズはハードボイルドというかサスペンスというか、ちょっと路線が違う。主人公の葉村探偵は、けっこう強引な人物である描写。仕事として調査を依頼されたり、知人のからみでもって事件に関わっていくのだが、最後に意外な結末が、、、という話。
次第に明らかになっていく事件の真相は、人の怖さといったものを浮き彫りにする。そういうストーリーが全編にわたって流れている。

練りに練ったトリックが、とか、超絶的な大どんでん返しが、とかいう大技は繰り出されない。読んでほんわかするような効果は全く期待できない。それでも何か読後感といったものが心に残る、これはそういう作品だと思う。個人的には、「女探偵の夏休み」の印象が強い。ある意味、えげつない結末なのですが。

依頼人は死んだ (文春文庫)


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読了:貴族探偵対女探偵, 麻耶雄嵩 [読書日記]

* 貴族探偵対女探偵, 麻耶雄嵩, 集英社, 9784087454895

麻耶雄嵩の「貴族探偵」第2弾である。
本作を読む前に第1弾を読んでおいたほうが、貴族探偵が貴族探偵たりえる理由などの背景事情が分かりやすいので、より楽しめるのではないかと思う。
また、連作短編の形をとっているが、メインの登場人物である「女探偵」のからみから、実質的に繋がったお話だと思って読んだほうが良いだろう。

1編目から3編目は、貴族探偵に振り回される女探偵をコミカルに描きつつ、ある理由(雪の山荘、絶海の孤島、など)から限定されてしまう捜査情報から犯人を特定していく推理合戦の妙が楽しい。これはもうサクサクと読んでいけばOK。
4編目はちょっと様相が異なるのである。同じ調子でサクサクと読んでいくと・・・あれ???と。さ、ここからページを戻っての読み直しが始まる。本格ミステリの醍醐味であると個人的には思う。そして、えぇ~というどんでん返し。楽しい。
5編目。これまでとちょっと異なる状況での事件勃発。女探偵はやむをえず真相究明に乗り出すのだが・・・結末近くでへぇ~と思わせておいてこれもどんでん返しが待っているのだ。

いや楽しいですね。前作ではエキセントリックさを前面にだしていただけのような感じもしたのだが、実は壮大な伏線だったのかということか。

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)


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読了:失敗の本質―日本軍の組織論的研究, 戸部良一 [読書日記]

* 失敗の本質―日本軍の組織論的研究, 戸部良一, 中央公論社, 9784122018334

失敗論に関する労作。すでに古典扱いと言ってよいだろう。組織論として一度は読んでおかないといかんだろうという単純なモチベーションで、8月くらいに入手してそのまま積読になっていたのをようやく読了。帯紙にサントリー社長の顔写真が印刷されているが、今買うと某都知事の帯紙になっているのかもしれない。

本書は、太平洋戦争時の日本軍の失敗した作戦6つの経緯に焦点を当て、その分析から失敗の本質を抽出し、それを教訓として今後に生かそう、という構成になっている。ページ数の分量からみると、「事例研究」として日本軍の失敗作戦を詳述している第一章が圧倒的に多い。当時の政治情勢および戦闘技術に関する知識ないし興味が薄い場合、ここを読み進むのに少々難儀するかもしれない(実際、自分はだいぶ難儀した)。ここには、ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、そして沖縄戦と、日本史の授業でやったはずの固有名詞が並ぶ。戦地に赴いた方には申し訳ないが個人的に歴史は全般に苦手で、各作戦の戦場となった場所についても今回ようやく地域を把握したというレベルなのがまずかったのかもしれない。

第二章では、各失敗の要因分析が行われ、その一つとして「組織」としての課題がうきぼりにされる。さらにこれらをベースに、今後に適用すべき教訓が第三章で語られるという形。ここに至って、現代のおもに日本の組織(もっとも本書が書かれた時代はバブル期なのだが)が「失敗」しないために陥ってはいけないポイントがまとめられていく。日本もしくは日本人という要素があることによって、当時と同じ失敗を(戦争という形ではないかもしれないが)繰り返すのではないか、というのが教訓の書かれた狙いなのだろう。

結局、組織論のエッセンスだけ短時間で読みたいなら、第三章だけしっかり読めば何とかなりそうという印象ではある。ただ、それだけでは巷の薄いハウツー本と同じ程度の理解具合になるかもしれない。
そうではなく、組織について深く熟考するための栄養として日本の歴史に学びたいのであれば、本書のまとめかたは有効なのだと思う。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)


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読了:暗い越流, 若竹七海 [読書日記]

* 暗い越流, 若竹七海, 光文社, 9784334773618

5作品を編んだ短編集。表題作「暗い越流」が日本推理作家協会賞を受賞している。

若竹作品というと、どちらかというとコージー系やコミカルなお話という印象だが、本作はちょっとそれとは一線を画す。
全編を通し、なんというのか、人間が心の奥底に持つ仄暗い悪意、というのか、謎を解くたびにそういうものをえぐりだす。
本書に限っては、読んでいて気持ちがほんわかする、というような話を期待してはいけない。(タイトルからして、そういうものは期待しないかもしれませんが。)

今の時代にありがちな背景がもとになって事件が起き・・・という話をふんふんふんと読んでいるとラストでウゲっと言わんばかりの引っくり返しが待っていたり、読み手をとにかく楽しませようという仕掛けが面白いところ。それと、冒頭からストーリーに読者をぐいぐいと引き込む流れるような文章も魅力の一つと言えるだろう。解説の近藤史恵の文章も良いですね、良い人選だと思います。

ところで「蠅男」で探偵が真相に気付くポイントはかなりのミステリマニアねた。ちゃんと伏線も張ってあるのでOKでしょう。(森高千里を想像してはいけないですね。笑)

暗い越流 (光文社文庫)


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