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読了:貴婦人として死す (She Died a Lady), カーター・ディクスン [読書日記]

* 貴婦人として死す (She Died a Lady), カーター・ディクスン, 高沢治, 東京創元社, 9784488118402

巨匠・カーのH.M. (ヘンリ・メリヴェール卿)ものの長編。古典である。
カーというと、不可能犯罪とか、怪奇趣味とかが頭に浮かぶが、本作はふつうに本格推理小説の形のようだ。

ものがたりはデヴォンの田舎開業医・ルーク医師の手記の形ですすめられる。
ある夜、屋敷から男女二人が消えてしまう。どうやら裏手の崖から飛び降りた様子なのだが、電話線が切られているなど不可解な状況が判明。やがて到着した警察が捜査を始めるのだがしかしさらに不可解な事実が見つかり、そうこうしているうちに案外早いうちにH.M.が登場、といった導入である。

最終的に明らかになるトリックは、現代の読者からするとそれほど驚天動地というようなものではない。デヴォン地域の○○ってそういう特徴があるんだ~というポイントは普通の日本人にはなかなか苦しいし、物的証拠が残ってしまう○○の手段はちょっと気になる。
それから、H.M.の登場シーンがいつになくしっちゃかめっちゃかで、ちょっと鼻白んだというところもある。(余談だが、motorized wheelchair(本書での訳語は電動車椅子。本当に電動なのか?)なるものが第二次大戦中にすでにあったというのが驚きであった。)

ともあれ、第二次大戦に突入しつつある時代の英国の重苦しい雰囲気をはしばしに織り込み、謎解きだけではないストーリーに仕上げたというところも、本作のポイントなのであろう。結末は、その時代そのものを利用してうまくまとめてあり、さすが巨匠という感じではあった。

貴婦人として死す (創元推理文庫)


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読了:統計学が最強の学問である, 西内啓 [読書日記]

* 統計学が最強の学問である, 西内啓, ダイヤモンド社, 9784478022214

統計学、というより統計解析手法、について啓蒙しようというねらいのビジネス書、といっていいだろう。
いわゆるインチキ統計をやり玉に挙げる新書の類は結構な数が出版されているが(個人的に、その手のブルーバックスなどが数冊蔵書にあったりする)、本書はそれらよりはもう少し突っ込んだ内容にしようとしている感じを受ける。

本書はあくまで啓蒙書なので、概念の説明のみ。数式も表もほとんど出てこない。具体的な計算方法、解析方法は別の文献にあたってくれというスタンスで、これはこれで読者層を絞ったということなのだろう。目的からして、理系で統計を専攻していたような人に読んでもらおうということではなく、数学?文系なんで苦手だしなー、統計?高校でやったっけどうだっけ?、のような人、しかし経済や政治を動かさなければならない立場の人、に向けた書きっぷりだ。(やや口語調なのが軽い感じを与えるかもしれない。講演スライドから落としたわけでもないだろうが・・・。)

個人的には、統計解析の手法自体、理工学実験などの結果分析のためにある程度使用したはずだが、社会人になってからはアナログな計測値を取り扱う仕事を全くと言っていいほどやっていない(常に測定値が離散的で1か0の分野だった)ので、この分野、特に本書にあるような高速計算機にバリバリとデータを食わせる近年のやりかたをよく理解していない。その意味で、久しぶりの統計技術の俯瞰やり直しには良かったなという感想。日々これ勉強である。(まあ、特定応用技術ならいざしらず、大学1-2年でやるような基礎分野を対象にした啓蒙書を読んでいて、知らない(覚えていない?)単語がちょろちょろ出てくる体験自体が久しぶりで、だいぶ青くなったというのが本当のところだ。)

統計学が最強の学問である


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読了:スノーホワイト, 森川智喜 [読書日記]

* スノーホワイト, 森川智喜, 講談社, 9784062779784

第14回本格ミステリ大賞の受賞作である。森川作品は初読。
いきつけの本屋で平積みになっているのを見かけて買っていたのだが、しばらく積読になっていたもの。
裏表紙には、『「真実を映し出す鏡」を持つ反則の名探偵・襟音ママエは、・・・』なる紹介コピー。なんじゃそりゃっていう第一印象。そんな設定で、いったいどう選考したら大賞を受賞するのだ・・・いわゆるバカミスじゃないのか??? と、本の中身よりそっちが気になって手に取ったきらいはある。

結論を書きましょう。これはかなり読者を選ぶ作品。普通の(ミステリマニアではない)読者は戸惑うだろうし、真剣な本格ミステリファンは怒り出すかもしれない。自分は面白かった。しかし面白がるのは変わり者だけかも。そういう人であれば、読んでみる価値はある。

目次をみると第一部が80ページほど、一方で第二部は300ページちかくある。第一部は前振りと判断して読み始め、なんだかものすごいドタバタミステリだよなぁと思いながら、第二部へ。このあたりで作品の雰囲気にちょっとした変化がある。いちおう座り直して読み進める気分になった。
問題の「鏡」は、なんでもできる魔法の道具なのではなく、単に想像を絶する強力な特定の能力を持つポータブル装置(原理やエネルギー源がどうなのかはおいておいて)として、本作では取り扱っていることが着々と明らかに。このあたり、巨匠アーサー・C・クラークの第三法則「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」を、かなり地で行っていると思う。

・・・この先はややネタバレ的になってしまうのだが、最初チョイ役だと思っていた三途川探偵が実は技術者的な観点で言ってすごい切れ者(尊称としてのhackerですよ、この人)であるとか、(法月氏の解説にも出てくるが)なんでもすぐググって自分で考えないでおしまいにしがちな昨今の風潮を(もしくはそれについていけていないIT旧世代を)ほうふつとさせる描写とか、(いわゆる)ネットでさくさく収集した情報や技術でもってこんなことやあんなことまでさらっとできてしまう世の中を皮肉ったり、そういう概念や光景がてんこ盛り。そしてネットをいくら検索しても未来のことは絶対にわからないという指摘も。
そんな中にも、ドイルの某作品的な挿話でちょっと苦笑させたり、日本人ならすぐわかる誤謬を潜ませたり、ミステリ読者へのサービスも忘れない。

まぁ「レース中に一回しか使えないニトロ」みたいなものですが、よくこのネタでこのレベルに仕立てたなぁというのが偽らざる感想だ。
選考者は、この爆発的な破壊力に魅力を感じたのかもしれない。個人的には、この作品を始祖とした大きな流れは将来的にも成立しないとは思うが、しかし、日本の本格ミステリ史の特異点として一つの記録に残る作品になるような気がする。

スノーホワイト (講談社文庫)


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読了:寛容論, ヴォルテール [読書日記]

* 寛容論, ヴォルテール, 中川信, 中央公論新社, 9784122054240

宗教宗派間の対立により起きてしまった実在の事件について、そもそも宗教間対立はあるべきでないという立場に立った論説である。

18世紀の著作であり、そもそも背景が宗教戦争の時代であったりするのであるから、誰もが容易に理解できる著作とはいえないかもしれない。現に自分は一読した限りでは、全容を理解したとは到底言えない。
カソリックとプロテスタントの間に、当時横たわっていたと思しい、深く険しい断絶。それを背景に起きてしまったらしい目を覆うべく社会的惨劇。そのような状態にあって本書は、宗派によらずキリスト教は対立を旨とするべきではない、他宗派に対して寛容の立場とすべきである、と説く。なぜそうなのか、なぜそういう解釈をして教義を犯したことにならないのか、をも、大量の引用文献をもって説くのである。

しかし現実問題として、宗教、とくにキリスト教の歴史(どうやら暗黒史らしい)や、当時の西ヨーロッパの風俗についてある程度理解していないと、未知の単語を多量に目にすることになり、読み進めるのがかなり苦しい。世界史は選択科目から外したなどといっているような輩(私だ)には、どだい敷居が高すぎた感がある。

しかし、このような著作があったという認識自体は、こんにちヨーロッパ全土で起きている宗教的対立(カソリックvsプロテスタントではないが)を、今後いったいどうするべきかの議論を理解するためには、多少の助けにはなるであろうと信じる。あくまで付け焼刃だが、そのように思いたい。


寛容論 (中公文庫)


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読了:鉄道旅ミステリ (2) 愛より優しい旅の空, 柴田よしき [読書日記]

* 鉄道旅ミステリ (2) 愛より優しい旅の空, 柴田よしき, KADOKAWA/角川書店, 9784041034583

柴田よしきの鉄道旅シリーズ第2弾。
前作と同様に、いくつかの鉄道路線をモチーフにしながら、ヒロインの精神的な成長を描く物語である。

ミステリと題してはいるものの、殺人が起きたり何かが消え失せたりするわけではないので、そのあたりはご注意。
いわゆる「日常の謎」の、もうちょっと大きめに構えたタイプというところだろうか。

短編連作の形をとるが、最後の1編を除き、もう何というかある意味で超マニアックな鉄道ネタと、全然鉄道と関係ないヒューマンドラマをまぜこぜにしたアクロバティックなストーリー展開をみせる。ジーメンス製のVVVFインバータを搭載した車両はどの路線に?とか、かつて小海線の蒸機列車登攀の妨げとなっていたあるモノとは?とか、なかなかそのネタで鉄道ものの話を書こうと思わないでしょうというセレクション。第1作を読むまで自分も知らなかったのだが、柴田よしきの鉄道マニアたる面目躍如といったところなのだろう。

さて前作からつながっているヒロインの大目的の話は、本編をもって一応の結論をみるわけだが、それに向かうための三陸方面への小旅行の描写、これはなかなか圧巻。著者もそれなりの量の取材をされたものとみえるし、もともとローカル鉄道観点で当該地域の歴史的背景に造詣が深かったというのもあるだろうが、ふつうのマスコミ記事ではこうは書けないだろうというような厳しい話がどんどん描きこまれてくる。

前作でも同じように思いましたが、鉄道と、日本の(いわゆる)地方に対する、著者の大いなる愛が感じられる、そんな作品です。

鉄道旅ミステリ (2) 愛より優しい旅の空 (角川文庫)


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