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読了:「昔はよかった」病, パオロ・マッツァリーノ [読書日記]

* 「昔はよかった」病, パオロ・マッツァリーノ, 新潮社, 9784106106262

過去を美化する風潮への警句である。2015年の出版。
帯紙には「なぜ日本人は過去を美化するのか」とあるが、本文を読んでいくと、これは必ずしも日本人には限らない、ずっと過去からの人類の病のようなものということのようだ。どうやら孔子もそのように言っていたようです(笑。

「昔は安全だった」「絆と人情があった」「みな礼儀正しかった」なんていうのは単なる記憶誤りであって、史料や統計資料にあたってみれば逆の状況だったことが明確になる、というのが本書の主張。参考文献もそれなりにちゃんと引かれているようなので、この辺のロジックはたぶん信用して良さそうである。特に本書でボリュームを確保している治安、安全の話は興味深い。あたりまえですが、この種の統計情報は(観点が時代とともに変わったりはしても)基本的な情報として正式なものが残っているわけで、これはだいぶ当てにして良さそう。

若者の根性が足りないとか、社会的マナーの劣化とか、このあたりは先日読んだ「江戸しぐさ」ばりの話で笑えるところでもある。戦前の電車の乗り降りのマナーがひどいものだったという話などは、(本書では引用されていないが)寺田寅彦の随筆でも触れられていたりするので明白な事実なのだと思われます。

一方で本書は、記述自体のロジックがいまひとつ厳密でなく、少々面白おかしく書かれている印象をうける。このあたりが参考文献として利用したい場合に障害になりそうな感じがするのがちょっと残念。

「昔はよかった」病 (新潮新書)


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読了:役に立たない読書, 林望 [読書日記]

* 役に立たない読書, 林望, 集英社インターナショナル, 9784797680096

読書論である。
念のため、「若者にもっと本を読ませましょう」のような単純な話ではない。若い人に読書を勧めてもいるが、どちらかというと、生涯読書を楽しんでほしい、でも実務的な本に絞るのはどうか、という論調であろうか。
課題図書を与えて感想文を書かせる、といった取り組みは一刀両断。ビジネス書を読むのを止めはしないが、誰かが勧めたからで本当に自分で読みたいと思いましたか、とも問いかける。「自分が読みたい本を読む」「読書に貴賎なし」などなど。

たぶんに著者の独断によるものもとはといえ、なるほどと頷かされることも多数。本文に書かれているが、ここで紹介されている本の読み方がすべてではもちろん無く、それぞれの読み方があって当然。それぞれの読み方を許容すべきじゃないですか、というのもポイントのようだ。
なんだかんだいって、ビジネス書はそれはそれで役に立つと思うし、だからこそ自分もちょくちょく読んだりする。技術書解説書なんてのは実用の最たるものだ。(それも良く読むが。)そうはいっても一定の割合で文芸書を読みたくなって、どうにか時間を作って読んだりするわけだが、まぁそういう読み方もあってよいだろう、と思うことにしたい。

基本的に本書は、具体的にああすべしこうすべしといったことは勧めていない。こう考えるとこんな良いことがあるかもよ、こういう行動ならこんな世界が開けるかもよ、といった、なんというか導きか篝火か。いわゆるテクニック系のビジネス書を読みつけているといらいらするかもしれない。

なお、本書は中盤にだいぶ紙数を割いて古典(ここではいわゆる古文のこと)の楽しみについて書かれているのだが、個人的には正直このくだりは読み進むのに苦労した。著者も言っているように、学生時代に無味乾燥な古文授業を受けていたせいか、どうにも古文にはとっつけない。このあたりも人によるということか。

役に立たない読書 (インターナショナル新書)


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読了:ムカシ×ムカシ (REMINISCENCE), 森博嗣 [読書日記]

* ムカシ×ムカシ (REMINISCENCE), 森博嗣, 講談社, 9784062936040

森博嗣のXシリーズ第4弾である。

なにやらいわくありげな旧家が舞台、その屋敷の主人夫妻が殺されるという事件が起き、いつもの探偵事務所の面々が屋敷の遺品、そのほとんどは美術品ということなのだが、の整理業務を請け負って現場に出入りしているのだが・・・という導入。あれ?いつの間に美術品を扱うようになったのだ?という疑問はさらっと状況説明的な文章で流される(のだが、森作品で美術品といったらアレでしょう、アレ)。で、そのつもりで読んでいると、なるほどやっぱりという展開になっていくという、ファンサービス的なストーリーとして構成されているようだ。最後のシメがまさにそれ以外の何ものでもないという感じ。

全般に、それほど混みいった事情やら超絶トリックやらは出てこないので、会話文が多いこともあってすらすらと読み進められる。登場人物たちの面白おかしい行動やら会話をクスクス笑いながら楽しみましょうという作品です。逆にこれだけ単体で読んでも、ふーんそれで?、ということになりそうだ。

ムカシ×ムカシ REMINISCENCE (講談社文庫)


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読了:江戸しぐさの正体~教育をむしばむ偽りの伝統, 原田実 [読書日記]

* 江戸しぐさの正体~教育をむしばむ偽りの伝統, 原田実, 講談社, 9784061385559

「江戸しぐさ」という道徳教材があるという。なんでも江戸時代の商人が励行していた、現代人が学ぶべき行動原理らしい。近年になってそれが義務教育の道徳教材に掲載されるようになったのだが、実はそれは戦後の創作物であって歴史的にみると何の意味もない話、という本である。

一部ニュースサイトなどで何度か話題になっていて、そういうものもあるのだね程度の認識だったのだが、どうも元の「江戸しぐさ」自体がだいぶオカルトめいた内容らしいということを聞きかじり、ちょっと面白そう(ネタとして)ということで読んでみた、というところ。

いや、なかなかの一刀両断ぶり。原田氏がばっさばっさと切って捨てている元の「江戸しぐさ」啓蒙本を読んでいないので単眼的になってしまうが、オカルト的なものというか、よくこんな適当な歴史描写をだれも突っ込まずに教科書に載せたなぁ、というのがいつわらざる感想である。渡し船の座席や、喫煙注意のマナーなど、近世歴史にたいして詳しくない自分でも完全に笑ってしまう内容。「東海道中膝栗毛」くらいは学生時代に拾い読みしましたのでね(笑)。

これは原田氏も繰り返しているが、元々「江戸しぐさ」啓蒙にあたって、単に現代マナーとして広報活動すればよかったのであって、あたかも古き良き江戸時代にそれが事実として存在していたかのように説明・捏造したのがまずかったのだ。どうも似非科学を流布している連中と根っこは同じ気がしている。
こういうのを読んでしまうと、そもそも「古き良き時代」って本当なんだろうかというのも疑問だ。都市伝説的に語られる「今時の若者は~」は軟百年も前からずっと言われ続けているのだ、と同じように、「昔は良かった」も実は昔からずっと言われ続けているだけなのかも知れない。

江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統 (星海社新書)


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読了:神の値段, 一色さゆり [読書日記]

* 神の値段, 一色さゆり, 宝島社, 9784800264893

現代美術業界が舞台のミステリ、というより殆どサスペンス小説である。第14回「このミス」大賞受賞。

いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの覆面・現代芸術家、その作品を専門に扱う画廊、その画廊のやり手の女性経営者が謎の死を遂げるところから物語が転がり出す。語り手は画廊で働く女性アシスタント。美術界、とくに現代美術の業界の色々なトピックス(というより特異な慣習か?)をとりまぜながら、なかなかテンポよくストーリーは進んでいく。そして最後にえええぇっというどんでん返しが読者を待っているのだ。

読了して、確かにどんでん返しの部分もあって、ミステリ的な要素もなくはないのだが、やはりこれは美術業界サスペンス小説であろう。
現代美術業界というどうやら世間の常識から相当はずれている世界の内実をネタにしつつ、やたらめったら高額な取引のシーンや業界用語の多用で読者をけむに巻き、そしてジェットコースター的なストーリーが展開される。読者は話の流れに身を任せましょうという趣向。
そうですね、舞台もいろいろで、派手な画も色々つくれそうなので、映画の原作などによさそうです。

個人的にはどんでん返しのシーンは、ちょっといろいろ気になった。特に、それまで警察が○○からの○○のせいで○○できない状況で・・・という前提が語られていたにも関わらず、こんな根拠で令状は出ないでしょう?

神の値段 (宝島社文庫)


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読了:データはウソをつく―科学的な社会調査の方法, 谷岡一郎 [読書日記]

* データはウソをつく―科学的な社会調査の方法, 谷岡一郎, 筑摩書房, 9784480687593

統計調査のあれやこれやを一刀両断にする快作。
この人の著作を手に取るのは2冊目。

前作「「社会調査」のウソ」は、マスコミ、政治家、行政当局、社会活動家へ、実名を挙げての結構過激な物言いが列挙されているものであったが、本作は、それらを下敷きにしつつ、もう少し丸めて書いてあるということのようだ。書籍の目的が、警鐘を鳴らすというよりは、学生・生徒向けに正しい方法論を示そうというところにあるように読める。

そうはいっても筆の鋭さはそのままで、読んでいて楽しい。
統計値を恣意的に捻じ曲げて解釈しようとする者、あやしげなアンケートをもとに怪しげな結論を導くやから、などなどをばっちりとやり玉に挙げ、どこが適正でないのか、どうすれば適正な(こういう突込みを受けないですむような)統計調査ができるのか、をいちいち具体的な事例(このあたりが類書とは一線を画すところか)をあげながらわかりやすくこれを説く。

情報リテラシーに関しては、いまどきは中学高校でも授業の一環として行われているようなので、リテラシの低いへたな大人より学生生徒のほうが間違ったことをしでかす可能性は低いのかもしれない。そうはいっても、今もこのような手引書は有用に思う。少なくとも社会や他者に何か物申すつもりの者は、え~統計って何?なんていうのは許されないのではないか。

データはウソをつく―科学的な社会調査の方法 (ちくまプリマー新書)


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読了:あなたの人生の物語 (Stories of Your Life and others), テッド・チャン [読書日記]

* あなたの人生の物語 (Stories of Your Life and others), テッド・チャン, 浅倉久志, 早川書房, 9784150114589

2002年発表のSF短編集である。表題作をはじめ8編を収録。
この表題作は、2016年に映画化され(映画化名:『Arrival』)、2017年に日本でも公開される。それもあって本書は各所で露出が図られており、今回初めて手に取った次第。

まず表題作であるが、実は2回読み直した。
1回目の読後感は、これって倒叙ミステリ形態?というもの。そんなわけないよなということで2回目読み直し。
イメージは把握したような気がするのだが、なぜそれが実現できたのか、それとも実現できた気がしているだけなのか、はたまたこれは最後の最後に彼女が回想しているところをヘプタポッドBで記述した(のを英語に翻訳したもの)ということなのか。まだまだ自分にとっては謎のまま。しかしおそらく映画を見ても解決しないような予感がしている。うーむ。

他の7編、いわゆる異色SFの味のものが目立つ。なんとか文字通りSci-Fiの範疇に入っていると思われるものもあって、それは何とか理解。しかしサイエンスの枠を相当はみ出した作風のものになると、なかなか自分のつたない力量では理解が難しい。現在の我々の世界とは違う自然原理に従う架空の世界が舞台のお話になると、理解を半分諦めて読んでいる自分がいる。

ちなみに、星新一の有名な某ショートショートをほうふつとさせるものも収録されていて、これは前振りの長さに対してオチがそう来ますかという形で笑ってしまった。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)


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読了:屋上の名探偵, 市川哲也 [読書日記]

* 屋上の名探偵, 市川哲也, 東京創元社, 9784488465117

鮎川哲也賞受賞作家の市川による連作短編集である。本作は、女子高校生探偵「蜜柑花子」が活躍する4編を収録。

受賞作品である「名探偵の証明」がなかなか面白そうということでチェックしていて(残念ながら未読である)、同じ作者の新機軸シリーズが出たというので読んでみたというところ。感想としては、うーんどうなんでしょうこれ。

タイトルもそうだが、帯紙の文句、裏表紙のアブストを読んで、てっきりこの名探偵さんは安楽椅子探偵なのだと思い込んで読み始めたのだが、別にそういうわけではないらしく、少々肩すかし。名探偵・蜜柑花子は、高校の校舎屋上でお弁当を食べながら事件のあらましを聞くや、自ら関係者の聞き込みに回る。そしてもっぱら論理的消去法に基づいて、最終的には犯人と目される人物を特定するのだが・・・という感じの話である。

ワトソン役の「おれ」や、他の登場人物の面々の言動が面白すぎるというところは案外楽しめるのだが、もっとも、ちょっといくらなんでも漫才ちっくだったり、ありえんでしょ度重なるこの怪しい設定、といったところはだいぶ読んでいて気にはなる。まぁ、学園ものミステリということで、そんなに細かいところに目くじら立てずに面白おかしく読めばよろしい、ということなのかも。(たぶん根本的な問題は、本作とどうやらつながっているらしい前作を読んでいないことな気がします。それはそれでどうなんでしょうという気もしますが。)

屋上の名探偵 (創元推理文庫)


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読了:私たちは生きているのか? (Are We Under the Biofeedback?), 森博嗣 [読書日記]

* 私たちは生きているのか? (Are We Under the Biofeedback?), 森博嗣, 講談社, 9784062940610

森博嗣のWシリーズ第5弾。
今回の舞台は南アフリカである。なにやら謎めいた存在である「富の谷」なる地区に赴くいつもの面々。ちょっとしたドタバタを経て、やや原始的な移動手段でもって現地潜入を敢行。意外にすんなりと当該地区の責任者と面会できるのだが・・・というストーリ展開。

実はこのあたりからが先が本作のメインなのだが、ネタバレになるのでちょっと語るのが難しい。
前作までもそうだったのだが、Wシリーズはわれわれ人類が近い将来に選択するかもしれない未来を描いている。本作の目玉技術も、10年余り前にものすごく話題になった某・アクション映画の流れと言えなくもないが、突き詰めていけばありえない選択でもないのかもしれない。果たして我々はこの方向性を検討するのだろうか。

(ところでこのシリーズ、毎回それなりに派手な戦闘シーンが出てくるのだが、本作ではあんまりそういうところは描かれていない。作者の趣向が変わったのかもしれない。個人的には少々鼻白む気分だったので無くても良いのですが。)

私たちは生きているのか? Are We Under the Biofeedback? (講談社タイガ)


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読了:理科系の作文技術, 木下是雄 [読書日記]

* 理科系の作文技術, 木下是雄, 中央公論新社, 9784121006240

タイトル通りの本である。
理科系の、と銘打っているが、これは小説とか詩のような情緒的な作文ではなく、誰かに論理的に物事を説明するための作文、という意味である。よって、必ずしもいわゆる文科系の人が読んでも役に立たないいうわけではない。例えば、経済学部や法学部の学生とか、経理部や調達部の人が何らかの調査や検討レポートを書くのならとても効果があると思う。

もっとも、本書の中で具体的な事例としてあげられている文章は、いわゆる理科系の、それも論文を書く体裁にのっとっているものが多いので、そういった内容を読みつけていない人には少々とっつきが悪いかもしれない。

ともあれ、誰かに何かをうまく伝えるために、そして正確に誤解なく伝えるために、本書で紹介されている文章構成方法は有効であろう(計算機関係の話が古いのは本質ではないので適宜読者が読み替えてしまえばOK)。もともと学生といった若い人に読んでもらいたいという本であるが、自戒を込めて、読みづらい分かりづらい間違って解釈されがちな文章を書かないために、本書は時々読み返してみるといいのかもしれない。

理科系の作文技術 (中公新書 (624))


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